【夜明けの詩】心の穴をなぞりあう対話の行き着く先

どうしても抗えない“時”

時が進むごとに、人は死に向かって老いていく。いろんな経験を経る中で、だんだん失うものも増えていく。その喪失を受け入れられずにずっと抱えたままだと、人生を進めるのが難しくなってしまう。

乳がんを患う妻を持つ写真家のソンハは、妻の死に備えて青酸カリを手に入れていた。希望にすがる度に絶望に突き落とされた彼が妻の喪失とともに死ぬことを決めたのは、正気を保つための最後の手段だったのだろうか。

バーテンダーのチュウンは、交通事故に遭った以前の記憶を失っていた。失った記憶をかき集めるように、酒を奢る代わりに客の記憶を聞き出している彼女は、タバコを吸って煙を吐くように、すぐに聞いた話を詩にしていた。まるで記憶を溜められないみたいだ。どこか浮世離れした佇いも、人生の蓄積である記憶を失ったために、時間の流れから逸脱してしまったからなのかもしれない。

現実を先送りするように、ふらふらと漂っていたチャンソクは、いろんな人の喪失に触れていく中で自分の心の穴と向き合うことを決心する。心の穴を埋められるのは、自分しかいないから。向き合うことで立ち現れた現実を、痛みを持って受け止めてこそ、やっと進んでいくことができる。

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■夜明けの詩(原題:아무도 없는 곳、英題:Shades of the Heart)
監督:キム・ジョングァン
脚本:キム・ジョングァン
プロデューサー:イ・ジュンサン
助監督:キム・フンミン
撮影:キム・テス
照明:チョン・ヨンソク
美術:チェ・ヨンシク
録音:チョン・ヨンギ
編集:ウォン・チャンジェ
音楽:ナレ
ヘア・メイク:イ・ジニョン
衣装:チョ・フェラン
特殊メイク:イ・ジュファン
サウンド:キム・ソクウォン
視覚効果:ソ・サンチョン
出演:ヨン・ウジン、イ・ジウン、キム・サンホ、イ・ジュヨン、ユン・ヘリ、ムン・スク、キム・クムスン、イム・ソヌほか
配給:シンカ

(イラスト:Yuri Sung Illustration

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S H A R E
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最近会社を辞めました。登山しながら、書きながら、暮らしていけたら最高です。