【チョコレートな人々】「温めれば、何度でもやり直せる」。できないことではなく、できることを数えながら生きられる世の中へ

osanai チョコレートな人々

愛知県を本店に、全国展開している久遠チョコレートを取り上げたドキュメンタリー。2003年にパン屋を開業した夏目浩次は、様々な困難を経て、チョコレートの可能性を見出していく。
「人生フルーツ」「さよならテレビ」を手掛けてきた東海テレビドキュメンタリー劇場第14弾。監督は鈴木祐司。ナレーションは宮本信子が務めた。

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ただ、障がいがあるだけ。セクシュアリティが多数派とは違うだけ。それだけの理由で、社会から排除される場面は数多くある。

何も悪いことはしていない。なのにどうして、自分たちばかり。そう思いながら、多くの当事者や当事者家族は、理不尽な差別や枠外に押し出される悔しみのほとんどを諦めながら生きている。

「隠さなくていいって、楽ですよ。隠さなきゃいけないのが、一番ストレスなんで」

映画「チョコレートな人々」に登場する、セクシュアルマイノリティ当事者・まっちゃんの言葉だ。もともとパティシエの仕事をしていたが、以前の職場で心無い言葉を浴びせられ、退職を余儀なくされたという。その後、紆余曲折を経て、本作の舞台となった「久遠チョコレート」にたどり着く。そこでようやく、まっちゃんは自らのセクシュアリティを隠す必要のない毎日を手に入れた。

「チョコレートな人々」は、久遠チョコレートの代表・夏目浩次さんとスタッフたちとの交流と葛藤を描いたドキュメンタリーである。2022年度時点で、全国に40店舗、57拠点を展開している久遠チョコレート(*1)。年間の売上高は、16億円(*2)。だが、ここまでの道のりは、決して平坦なものではなかった。本作では、起業当初から19年にも及ぶ奮闘の日々が赤裸々に描かれている。

久遠チョコレートのはじまりは、2003年。
夏目さんが、重度の知的障がいを持つスタッフ3名と共に開店した、小さなパン屋だった。

大学でバリアフリー建築を学んだ際、障がい者の月給が1万円を切る現実を知り、衝撃を受けた夏目さん。それを機に、月収3,000円~4,000円の工賃で働いている障がい者の現状を変えるべく、最低賃金を支給できる職場を作ろうと決意する。

しかし、パン作りは工程が複雑で単価が安い。その上パンは日持ちしないため、売れ残りは廃棄するよりほかない。薄利多売を強いられる現状で、スタッフたちに一定額の賃金を支払うのは、容易なことではなかった。

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S H A R E
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エッセイスト/ライター。エッセイ集『いつかみんなでごはんを——解離性同一性障害者の日常』(柏書房)刊行。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評・著者インタビュー『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『婦人公論』|ほか、小説やコラムを執筆。海と珈琲と二人の息子を愛しています。

エッセイ集『いつかみんなでごはんを——解離性同一性障害者の日常』(柏書房)
https://www.kashiwashobo.co.jp/book/9784760155729