フランス映画は難しい──
2000年代に入り、「アメリ」「最強のふたり」に代表される大衆性の高い作品が登場してもなお、フランス映画に対するイメージは良くも悪くも難解さを伴っている。
今回インタビューしたのは、白百合女子大学 文学部 フランス語フランス文学科で教壇に立つ村中由美子さん。担当するゼミで、フランス映画と原作をそれぞれ比較する授業を行なっている。ゼミ生たちは、自分で選んだ「原作のある映画」に関するプレゼンテーションやレポート執筆に挑戦するそうだ。
村中ゼミが、2022年夏の学外活動で鑑賞した作品は「アプローズ、アプローズ!囚人たちの大舞台(以下、アプローズ!)」。大学生は、「アプローズ!」をどのように鑑賞したのか。また普段、村中ゼミではどんな授業を行なっているのか、詳しく話を聞いた。
村中 由美子(むらなか ゆみこ)
高知県生まれ。パリ第4大学(現在のソルボンヌ大学)およびルーヴァン・カトリック大学にて博士号を取得。白百合女子大学では、非常勤講師、専任講師を経て、2021年より准教授に就任する。専門は20世紀フランス文学、特に小説家のマルグリット・ユルスナールを研究している。
アプローズ、アプローズ!囚人たちの大舞台
刑務所で演技ワークショップ講師を頼まれたひとりの男が、囚人たちと共に、サミュエル・ベケットの戯曲「ゴドーを待ちながら」の上演を目指すヒューマンドラマ。
主人公のエチエンヌを演じたのは、カド・メラッド。監督はエマニュエル・クールコル。本作は、スウェーデンの実話がもとになっている。
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大舞台で輝いた、自由であること
──まずは「アプローズ!」の感想を教えてください。
とにかくテンポが良いですよね。主人公のエチエンヌが刑務所でのワークショップ講師に就いてから、わずか2週間で、刑務所内にて演目「うさぎと亀」の上演に成功します。
それで味を占めたエチエンヌが、不朽の名作「ゴドーを待ちながら」をやりたいと意欲を見せる。ありがちな話だったら、「囚人たちに演劇なんてさせられない!」と反対する人たちが出てきますよね。でも「アプローズ!」では、意思決定者である刑務所長や判事がエチエンヌに協力的でした。チャレンジを見守り、ときにサポートするスタンスに温かさを感じるほど。“冗長で難解”といったフランス映画のイメージは、ほとんどなかったように思います。
──エチエンヌだけでなく、囚人たちのキャラクターも魅力的でした。
誰かのためでなく、それぞれが自分のためにやっています。
エチエンヌが招かれた理由は、あくまで「囚人の更生」という道徳的なプログラムのため。でも俳優としての仕事がないエチエンヌは、何とか一旗あげたいと野心を抱いた。最初は嫌がりながら演劇を始めていた囚人たちも、だんだん演じるのが面白くなってきて。刑務所の外で上演されるようになっていくと、「息子に会いたい」とか「パートナーに良いところを見せたい」とか、自分ありきのピュアな動機が生まれます。実に、人間らしいですよね。
──学生たちの反応はいかがでしたか?
学生のひとりが、邦題の「大舞台」という言葉にかけて、「ステージから見えた景色、そしてその先にある彼らの自由な人生を表現しているのではないか」と感想を話していました。演じることに夢中な囚人たちの姿に、自由や未来のあり方を見出したのでしょう。
コロナ禍なので、じっくりと映画について語り合う時間は持てなかったのは残念でした。でも、映画館から駅に向かう道すがら、学生同士で映画の感想を語り合っていて。そういった対話が生まれるのも、映画の優れた点だと思います。