【アプローズ、アプローズ!囚人たちの大舞台】想像の中でどこまでも行ける。比較と対話で導く広い世界への好奇心とは?(白百合女子大学 准教授・村中由美子)

広い世界への好奇心や憧憬を抱き続けてほしい

──村中先生は学生時代、存命中にユルスナールが住んでいた家まで足を運んだそうですね。

彼女の蔵書を調査するために、アメリカのメイン州にあるマウント・デザート島に行きました。幸いなことに、死後も彼女の蔵書はそのまま残っていて、夏の間だけ一般公開されているんです。彼女が生前、どんな本を読み、読んだことでどのように素晴らしい小説が完成したのか知りたかったんです。

──実際に行くと、新しい発見もありそうですね。

本当に、たくさんの発見がありました。蔵書がただ並んでいるわけではなく、ところどころメモが挟んであったり。またユルスナールは、庭の植物のイラストも描いていて。彼女は、動物や植物にシンパシーのある作家でしたが、実際に現地を訪ねたことで、彼女のスタンスと実際の行動が繋がったような感覚を得ることができました。

ユルスナールの代表作『黒の過程』の中に、「せめて自分の牢獄をひとまわりしようともせずに死ぬ無分別なものが誰かいるだろうか」という台詞が出てきます。世界は広いけれど、やはり制限もあるというのが、晩年のユルスナールのテーマです。それでも広い世界を知ろうとする主人公の葛藤が、『黒の過程』の読み応えのある点でもあります。そういった好奇心のありように、私も間接的に影響を受けているのかもしれません。

──まさに村中先生が、『黒の過程』の主人公の葛藤を体現されたんですね。

昨今はコロナ禍なので、世界を知りたくても、気軽に海外へ旅に出ることが難しい状況です。そういった意味でも、作品を通じて、想像の中でどこでも行けるのが文学や映画の良いところです。

コロナ禍でなくても、日常のほとんどは単調な繰り返しで、どうしても鬱憤が溜まることがあります。そんなとき、すぐに旅に行けるような状況の人はほとんどいません。でも映画館は、誰でも日常から離れ、スクリーンで全く知らない世界に没入できる場所です。単調な日常に風穴を開け、広い世界への好奇心や憧憬を抱かせ続けてくれる。学生には、自分の知らない世界と出会う機会に恵まれてほしいと願っています。

(Photo by Momoko Osawa)

──

■アプローズ、アプローズ!囚人たちの大舞台(原題:UN TRIOMPHE)
監督:エマニュエル・クールコル
脚本・台詞:エマニュエル・クールコル
協力:ティエリー・ド・カルボニエール、カリド・アマラ、ヤン・ヨンソン
プロデューサー:マルク・ボルデュール、ロベール・ゲディギャン
アソシエイト・プロデューサー:ダニー・ブーン
プロダクションマネージャー:マリー=フレデリック・ロリオット=ディ=プレヴォスト
ユニットマネージャー:ファブリス・ブースバ
撮影:ヤン・マリトー
編集:ゲリック・カタラ
音響:ピエール・ゴーチェ、サンディ・ノタリアーニ
音楽:フレッド・アヴリル
主題歌:ニーナ・シモン「I Wish I Knew How It Would Feel To Be Free」
出演:カド・メラッド、ワビレ・ナビレ、ソフィアン・カメス、ダヴィッド・アヤラ、ピエール・ロッタン、ラミネ・シソコ、アレクサンドル・メドベージェフほか
配給:リアリーライクフィルムズ

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株式会社TOITOITOの代表です。編集&執筆が仕事。Webサイト「ふつうごと」も運営しています。