大学進学前に、自然災害にて家族を失った青山霜介が、アルバイト先の絵画展設営現場にて水墨画に出会う。水墨画の世界に魅了された霜介が、ひとりの絵師として成長を遂げる物語。
作家、水墨画家の砥上裕將による原作を、「ちはやふる」三部作の監督・小泉徳宏、プロデューサー北島直明によって映画化。主演は横浜流星。主人公を支える師匠・篠田湖山を三浦友和が演じている。
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その音楽を聴いた時、心の中に私がもっとも愛している花、桜が咲き誇ったような気持ちがした。薄明に咲きこぼれる桜の木が1本、ぽつりと佇んでいた。
家族を失った大学生、青山霜介が心動かされた1枚の水墨画に出会い、その道へと足を踏み入れていく姿を描いた映画「線は、僕を描く」。本作は「ちはやふる」で瑞々しくも力強い青春物語を描き切った小泉徳宏監督がメガホンを執り、映画を彩る音楽は「ちはやふる」に続き横山克氏が担当した。
前作「ちはやふる」は原作未読の状態で劇場に観に行き、正直なところあまり期待はしていなかった。しかし観終わった後、小泉監督が撮るかるたの世界が想像以上に色鮮やかだったこと、横山氏の音楽がそれを彩っていたことが印象に残った。きっと監督の世界観と、横山氏の音楽の相性が良いのだろう。そう思った私は、ふたりのタッグがまた観られるのを心待ちにしていた。
冒頭、椿の水墨画を観て静かに涙する霜介のシーンを見て、「ちはやふる」が頭に過った。冒頭のシーンというのは観客に第一印象を与える大事な場面である。上の句では名人戦・クイーン戦でかるたと対峙する主人公の千早を、下の句では千早とその幼なじみ、太一と新との過去を捉えながら映画が始まる。
ぐっと物語に興味関心を持たせる誘導の巧さと、物語の始まりを示唆する音楽は、今作でも健在だった。霜介の心が確かに動いたことを伝える、繊細なストリングス。横山氏の音楽は、私が「ちはやふる」を擦り切れるほど観ていた頃と何も変わらずにそこに流れていた。映像と音楽、それぞれが描き出すタッチは優しく、しかし克明に流れる時間を表現し、物語を紡いでいた。