【PLAN 75】冴えわたる心、自由な思考

PLAN75 osanai

75歳以上が自ら生死を選択できる制度「プラン75」。少子高齢化が進んだ近未来の日本を舞台に、安楽死の制度をめぐって葛藤する人々の姿を描く。
78歳の角谷ミチを倍賞千恵子、「プラン75」申請窓口で働くヒロムを磯村勇斗が演じている。監督は初長編監督作となる早川千絵。

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鑑賞前に感じていた不安

大丈夫かな。観終えた後、苦しくなりそうだな。そう心配になりながら、H列8番に座った。

映画を観ると、私は心がもっていかれすぎてしまうのだ。作品の中で生きる人たちに感情移入するあまり、現実に少しの支障をきたす。映画を観た日はよく眠れないことが多いし、その後もしばらくは、ふとした瞬間にその作品のことを思い出しては、切なくなったり、絶望でどうしようもない気持ちになったりする。社会派の映画であれば、なおさらだ。作品の中だけにとどまらない問題を直視するには、それなりの覚悟が要る。

そんな私が、今回「PLAN 75」を観たのは、申し訳ないくらいに受け身な理由だ。堀さんから「里沙さんが「PLAN 75」を観て、どんなテキストを書いていただけるのかは、めちゃくちゃ気になるところです」とお声がけいただいたから。嬉しすぎるお話、絶対チャレンジしてみたい。

本作は、少子高齢化が一層進んだ近い将来の日本が舞台。国会で可決された、満75歳以上になると自ら死を選択できる制度<プラン75>に対し、当事者である高齢者、そして若い世代がどのように向き合っていくのか、が描かれる。

正直、自分では選べない作品だったと思う。少なくとも、映画館で観ることは。しばらくは消化できなくて苦しい日々を過ごすことになるだろう。

想像力を誘発する、余白の美しさ

観終えた後の私の心は、けれども、上映前に想像していたものと、まったく違った。日本で今まさに現実になろうとしている問題が浮き彫りにされ、強烈な危機を感じた。考えたい、いくつもの問いが頭に浮かび、作品がしっかりと体の中に入ってきていた。しかし、ふだん映画を観た時に感じるような、嫌な苦しさはなかったのだ。自分の中に前向きな推進力が生まれ、心にはどこか軽やかささえ感じられた。不思議な映画。初めての感覚だった。

余白の美しさ。それこそが、私が苦しくならなかった大きな理由のひとつであり、この映画の魅力ではないだろうか。美しい余白が、想像力を誘発する。深く考えさせる。けれど、決して追い詰めない。「余白の美しさ」について、具体的に3つの要因を挙げてみたい。

ひとつには、映像の美しさが作用していると思う。鑑賞しているうちに心が浄化され、澄んでいく。

映画っていうのは映像の芸術だと思っているので、やっぱり美しい映像で物語を紡ぎたいなというのがありました。特に陰影の美しさっていうのには、こだわったつもりです。(中略)光ですとか、空気感というか、そういったものはやっぱり映画の中にちゃんと映し出したいという気持ちがすごく強くありました。

(YouTube|「映画『PLAN 75』公開記念ナビ番組 スペシャルトーク編|大ヒット公開中」より)

早川監督もこうお話されているように、まず光と影が美しい。各シーンにおける主題との距離感、アングル、構図も印象的だった。まるで詩を味わっているかのよう。美術館や展覧会を訪れ、時間を忘れて写真や絵画を鑑賞している時とも似ているかもしれない。映像の美しい余白によって、自分の中から濁りが消え、思考にも余白が生まれていく。余白があるからこそ、浮かび上がってくるものがあるように感じた。

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S H A R E
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東京在住。コピーライター。好きな映画は「ファミリー・ゲーム/双子の天使」「魔女の宅急便」。