今年も早いものでもう6月。上半期を振り返る時期がやってきました。
毎年そうですが、年の前半はやはり米国アカデミー賞に関連した映画の公開が続きます。
昨年は「エブエブ」こと「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」が大盛り上がりでアカデミー賞を席巻しました。
さて、今年はどうだったかというとクリストファー・ノーラン監督の「オッペンハイマー」がアカデミー賞最多ノミネートで話題をさらいました。
13部門ノミネートで、7部門で受賞。それも作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、助演女優賞など主要部門の受賞という堂々たる結果でした。
「原爆の父」を描いた作品だけに、話題作にもかかわらず日本での公開が見送られるんじゃないかという騒動もあり余計に話題になりました。
(アメリカでの「バーベンハイマー」など悪ノリなミームもありました)
公開はアカデミー賞の後だったということもあり、日本でもヒットを記録。
世界的にも偉人を描いた伝記映画で歴代ナンバーワンを獲得したそうです。
その他、アカデミー賞関連作品でいうと、国際長編映画賞を受賞した「関心領域」。
アウシュビッツ収容所の隣に住む幸せな一家の話という設定だけ聞いてもなかなか只事ではない作品ですが、内容も本当にすごい。すぐ隣にある悲劇に無関心になって、自分の事にしか関心が向かなくなってしまう怖さを描いた作品です。
そして、長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した「マリウポリの20日間」。
これはロシア軍に包囲されたウクライナの都市マリウポリでカメラを回し続けた監督が記録した映像を映画化したものです。元々はCNNなどのニュース映像として現地取材していたものです。ロシア軍がフェイクニュースだと報じていた病院への空爆は、AP通信社のビデオジャーナリストでもあるミスティスラフ・チェルノフ監督が、文字通り命をかけて撮影しました。監督自身が生き抜いたからこそ、悲劇的な現実を証明できたのです。
その他、アカデミー賞作品ではないのですが、5月に公開された「人間の境界」。
これはポーランドへ移民しようとしたシリア人家族が、ベラルーシの国境に追い出され、ベラルーシからまたポーランド国境に追い返されるという政治に翻弄された現実の惨劇を描いた劇映画です。
なかなかハードな映画ばかりをあえて挙げてきましたが、でもこれが今年のアカデミー賞の傾向です。ここから読み取れることは、そう。「戦争」です。
ロシアとウクライナの戦争も終わりが見えず、イスラエルによるパレスチナのガザ地区への空爆が始まり、戦争は減るどころかその戦禍は増してしまっています。
そんな世界的な流れに対して、戦争がどれだけ愚かで悲劇を生むものなのかを映画を通じて表現し、それを評価するというアカデミーのメッセージでもあるのです。
そして5月に開催されたカンヌ国際映画祭。今年のポスターは、黒澤明の「八月の狂詩曲(ラプソディー)」でした。これはどんな作品かというと、長崎を舞台に被爆した祖母と家族の物語。反戦メッセージの象徴だといえます。
長崎に落とされた原爆を作った男の映画がアカデミー賞を受賞し、それを受けてカンヌは長崎を舞台にした反戦映画を映画祭のポスターにしました。
そしてどちらにも関係しているのが日本という国です。
このタイミングで、日本からも平和的、反戦的なメッセージが何か出せればもっと良かったのにと思いました。