責任をとらない創造者
1857年、北極圏の海上で氷に挟まれて立ち往生していた探検船ホリゾント号の乗組員が、氷上で瀕死の男を発見するところから物語は始まる。船長室で介抱された男は、ヴィクター・フランケンシュタインと名乗り、自らの「創造物」に追われていると語る。「創造物」とは何なのか。なぜ追われているのか。ヴィクターは自らの過去を静かに語り始める。
名門医師の家庭に生まれたヴィクターは、支配的な父親から医学の教育を受けながら育つ。愛情を注いでくれた母親が弟の出産時に亡くなったことがきっかけで、死の克服というテーマに心を奪われたヴィクターは、生命を創造するという研究に取り組むようになる。
医師が集まる会合で、研究成果についてプレゼンテーションをするヴィクターは、真理の探求を目指す科学者というよりも、野心に燃える起業家のようだ。我の強さと、人を動かす強い魅力を武器に大規模な資金調達に成功、専用の研究所を設立して、複数の死体を組み合わせて作った身体に、雷を利用した電気エネルギーを流すことで、生命を生み出す実験を開始する。
実験は成功し、継ぎ目だらけの「彼」は動き出す。歓喜するヴィクター。しかし、長くは続かない。「彼」に知性は宿らなかった。世界を知らず、言葉は理解できない。何とか言葉を教えようとするが、覚えたのは「ヴィクター」の一語だけ。「創造した後のことは考えていなかった」と苛立つヴィクターは、「彼」を遺体置き場に鎖でつなぐ。
機能不全家庭で育ち、ケアをすることができない男性性を抱えたまま大人になったヴィクターは、知識を教えることができても、人を育てることができない。『第二原因』であるヴィクターが生み出した「彼」は、神の理から外れた「原罪を持たない純粋な存在」であるはずだ。しかし、ヴィクターには「知性のない怪物」にしか見えない。ヴィクターは創造主であることを放棄し、「彼」に名前をつけなかった。
なぜ怒られているのかわからずに、ずっと怯えている「彼」に、弟の婚約者であるエリザベスは愛をもって接しようとするが、それをヴィクターは受け入れられない。最終的には自身が犯した罪を「彼」になすりつけ、鎖につないだまま、研究所に火を放つ。
