語らない二人
アメリカ人の元駐在員ウィリアム・リー(ダニエル・クレイグ)は、メキシコシティにある小さなアメリカ人コミュニティで、夜な夜なセックスする相手を探している。その中で、ユージーン・アラートン(ドリュー・スターキー)と出会い、彼にのめり込むようになる。
若く見積もっても50代のリーが20代前半のアラートンに必死にアプローチする様子がとにかくカッコ悪い。気持ち悪いと言ってもいいかもしれない。馴染みのバーで視線をチラチラ送る。近くに座る。話をしながら肩に触れようとする。飲みに行って盛り上がった後は家まで送る。路上で見かけたら、走って向かい、声をかける。
アラートンを性的な眼差しでしか見ていないリーの、一連のアプローチは一切かわいらしく見えない。アラートンがその眼差しをどのように受け止めていたのかはよくわからないまま、ある夜二人はリーの家で飲み、肉体関係を持つことになる。
それ以降、リーはアラートンと頻繁に会うようになる。カフェで、バーで、自宅で一緒に時間を過ごすようになる。セックスもする。しかし、関係は深まっていかない。親密さは生まれない。
リーはアラートンに必死に話しかけるが、アラートンの反応は薄い。焦りと不安から、リーは、アラートンに「費用は全部自分が出すから南米に旅行に行こう」と誘う。それでも、アラートンの反応は鈍く、曖昧な返事を返すだけだ。
二人は一緒にいて話をしている。でも、感情や思っていることを口にすることはない。
リーはアラートンに「好きだ」と口にしない。「一緒にいてほしい」とも言わない。かわりに、「南米に一緒に旅行に行こう」と言う。「自分のことを大事にしてくれ」とも言わない。かわりに、「費用は全部出すから、週に2回は俺と寝ろ。後は好きにしてくれて構わない」と言う。アラートンも同様だ。リーと会話はする。話を聞く。返事はする。でも、何を思っているかは語らない。伝えようとしない。彼が何を考えているのかがわからない。彼らのセックスは無言で始まり、無言で終わる。
結局行くことになった南米旅行で、リーは薬物の禁断症状が出て体調を崩す。アラートンは彼の肩に手をかけ、一緒に歩く。しかし、アラートンがリーに優しい言葉をかけることはない。ハグすることもない。寝るときは、それぞれのシングルベットで別々に眠る。寒気に震えるリーに背を向けて寝るアラートン。リーは、アラートンに「抱きしめていいか」と声をかける。「いいよ」と答えるアラートン。リーは隣のベッドに移動して、背を向けたままのアラートンを後ろから抱きしめる。それをただ無反応に受け入れるアラートン。
スクリーンの外にいると、二人が一緒にいる意味が見出せない。二人の間に何らかの関係性が育っているとも思えない。どこにいても、どんな状態でも親密さのない二人。それでも一緒にいる二人。なぜ二人は一緒にいるのだろうか。二人を結びつけているものは一体何なのだろうか。