『あらがうドラマ 「わたし」とつながる物語』“当たり前”が踏みにじられる世の中に抗うために。ドラマを通して見る景色と現実の交錯

osanai 西森路代『あらがうドラマ』

フリーライターの西森路代が、目まぐるしく変化する価値観や社会のあり方を捉えた日本のテレビドラマ23作品を紹介。「組織と労働」、「生殖」、「性加害」など様々な切り口で執筆、すべての作品が“抗っている”と語る。本書後半には、脚本家・吉田恵里香との対談も収録されている。

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「あらがう」というフレーズは、私の生活において身近なものである。女性で、障害者で、虐待サバイバー。マイノリティが生きる上で、抗うことはもはや日常だ。おとなしく従順であればあるほど、人権は剥奪され、尊厳は踏まれる。だから眉をしかめられようとも声を上げるのだ。「虎に翼」の寅子が、「はて」と言い続けたように。

ライターの西森路代氏による新著『あらがうドラマ 「わたし」とつながる物語』(303BOOKS)が、2025年3月に刊行された。本書は、「ままならない日常に抗う」描写が印象的なドラマを23作品取り上げ、さまざまな角度から作品を批評している。

2024年に社会現象となった朝ドラ「虎に翼」をはじめ、「エルピス––希望、あるいは災い」「問題のあるレストラン」「MIU404」など、数々の話題作が登場する。各作品に簡潔な説明があるため、未視聴であっても違和感なく読み進められるのが嬉しい。

本書には、たびたび「フェミニズム」のワードが登場する。フェミニズムについて語るとき、世間は未だに「おずおずと話すこと」を求めてくる。堂々とフェミニズムを語ると、「面倒な人」「小賢しい人」という不名誉なレッテルを貼られる。本書冒頭で描かれる、「逃げるは恥だが役に立つ」の主人公・みくりが良い例だ。

なぜ、女性が権利について語ることを世間は拒むのか。本書で紹介されるドラマは、おしなべてその問いに答えを提示しているように思う。難解な問いに、不変の真理などありはしない。ただ、根底に「考える」意思が見える。わからないから考える。知りたいから考える。変えたいから考える。ドラマ作品を通して、著者もまた、ひたすらに考え続ける。その思考の断片が、読み手に問いを投げかける。

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S H A R E
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エッセイスト/ライター。エッセイ集『いつかみんなでごはんを——解離性同一性障害者の日常』(柏書房)刊行。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評・著者インタビュー『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『婦人公論』|ほか、小説やコラムを執筆。海と珈琲と二人の息子を愛しています。

エッセイ集『いつかみんなでごはんを——解離性同一性障害者の日常』(柏書房)
https://www.kashiwashobo.co.jp/book/9784760155729