マルホランド・ドライブという名称は、故デヴィッド・リンチ監督の代表作として認知している人が多いだろう。
映画「マルホランド・ドライブ」は、ハリウッドからロサンゼルスを見下ろし一望できる、夢と希望あふれる場所が舞台の作品である。だがこれは、デヴィッド・リンチの作品だ。ただの夢物語では終わらない。
マルホランド・ドライブで起きた事故により記憶を失った女性・リタは難を逃れようとハリウッドへと下る。そこで女優を目指すベティと出会う。リタの記憶を取り戻そうとしながら二人は絆を深めつつ、ベティは自身の夢を叶えようと女優活動にも邁進する。
リタの記憶を取り戻すヒントを得た二人はある場所へ行くが、そこでの出来事を境に物語はまるで別のストーリーへと切り替わる。
そこでは、身も心も疲れ切ってしまったベティと、ハリウッドスターとなり成功していたリタの物語が、前半で見覚えのある情景や登場人物とともに描かれていく。しかし、先ほどまで見ていた内容とは対照的な展開が説明なしに繰り広げられていくため、観客は一体これはどういうことなのだろう?と考えれば考えるほどわからなくなってしまうのである。
そう。本作はアメリカンドリームを掴もうとするベティのサクセスストーリーでも、リタは一体何者なのか?を追い求めるサスペンスでもない。デヴィッド・リンチが魅せる「ハリウッドの悪夢」である。
本作と同じハリウッドを舞台にした作品として、輝かしい未来に夢を抱く男女の恋の行方を描く「ラ・ラ・ランド」がある。劇中で理想と現実を表現する回想シーンがあるが、その境目は明確だ。最後は互いの現実へ進んでいくことで「夢を追いかけた先の現実を受け入れた」ことがわかるが、「マルホランド・ドライブ」は、「夢を追いかけた先の現実を受け入れられず、生み出してしまった幻想」を描いている。その違いはあまりに大きい。