人間は例外なく死ぬ。どんなに嘆いても、それだけは避けられない現実だ。
自分は老いと無関係だと錯覚できたのは遠い昔。永遠に大人になどならないような気がしていた、かつて子どもだった私は、いつの間にか立派な中年になった。
あらゆる生命は、生まれ落ちた瞬間から死への行進を続けている。
決して引き返せないし、決して立ち止まれない。
マーサはとても冷静に、自らの生の終わり方を選択した。
死に方を選ぶことで、生き方を選んだのだ。
圧倒的な緑の森で、鮮やかなリップを引いた彼女が目を閉じる。
それぞれ固有の距離感に、無数の運命の人がいる。隣の部屋にも、隣の国にも。
無数の散文を浴びながら、森の呼吸に溶けていく死。
それは、決して孤独じゃない。
──
■ザ・ルーム・ネクスト・ドア(原題:La habitacion de al lado)
監督:ペドロ・アルモドバル
原作:シーグリッド・ヌーネス『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』
脚本:ペドロ・アルモドバル
撮影:エドゥ・グラウ
編集:テレサ・フォント
美術:インバル・ワインバーグ
衣装:ビナ・ダイヘレル
メイク:モラグ・ロス
ヘアデザイナー:マノロ・ガルシア
音楽:アルベルト・イグレシアス
出演:ティルダ・スウィントン、ジュリアン・ムーア、ジョン・タトゥーロ、アレッサンドロ・ニボラほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト:https://warnerbros.co.jp/movies/detail.php?title_id=59643
(イラスト:水彩作家yukko)