灯と家族の関係を軸として、神戸の街の情景をも色濃く映し出す本作には、震災が原因で歪んだシャッター街が登場する。「神戸は復興した」と多くの人が言う。だが、復興とは何をもってして言い切れるのだろう。灯のように、震災の爪痕が残した記憶に心を蝕まれる人もいれば、復興のために尽力して燃え尽きてしまった人もいる。心の傷は、時に外傷よりもはるかに長い年月をかけて内側に食い込む。未だ癒えぬ傷を抱え、歪んだままのシャッターのように傷口を庇いながら歩く人がいることを、私たちは心に留めておかなければならない。
“回復に向けて懸命に生きる人を、敬意をもって受け入れる社会を作ることも〈心のケア〉の重大な意義ではないかと私は思う。”
本作の原点ともいえる、安克昌氏の著書『心の傷を癒すということ』の一節である。故・安克昌氏は空から見ているだろうか。彼が遺した言葉と思いが、何十年先の未来でも語り継がれている様を。「あかり」が引き継がれ、新たな物語が生まれる光景を。
シビアなテーマながら、医師の温かい言葉と「家族を諦めない」灯の意思がともる本作には、希望を絶やさずにいたいと願う製作陣の思いが反映されている。泣いて、悩んで、苦しんで、それでも顔を上げて生き続ける灯が選んだ道は、神戸の人々の心にたしかな光をもたらす。優しくない現実を直視する時ほど、優しさが必要だ。「心の傷を癒すということ」からつながれたバトンは、本作にしっかりと息づいていた。
30年前の阪神・淡路大震災。2011年の東日本大震災。昨年の元旦に起きた能登半島地震。どの震災時にも、多くの命が奪われ、たくさんの人が大切な家族や友人、住まいを失った。能登に住まう人たちは、まだまだ不安と混乱の最中にある。1日も早い復興を望む一方、望むだけでは不十分なのだろうと感じている。言葉にしなければ、伝えなければ、思いは届かない。
震災は人命だけではなく、“人の居場所”そのものを奪う。その痛手による傷は深く、痛みが癒えるまでにかかる時間は人によってさまざまだ。誰かの痛みを軽んじることなく、誰かの喜びを否定することなく、互いの心を尊重して生きる。家族も、復興も、“自分の生”を生きることも、すべてその先につながっているように思う。万人に共通する答えなどない。だからこそ探し続け、もがき続ける。ある登場人物が言った通り、「大事なもんは時間がかかる」のだから。
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■港に灯がともる
監督:安達もじり
脚本:安達もじり、川島天見
エグゼクティブプロデューサー:大角正
プロデューサー:城谷厚司、堀之内礼二郎、安成洋
取材:京田光広
アソシエイト・プロデューサー:京田光広、坪内孝典
監督補:松岡一史
美術:石村嘉孝
撮影:関照男
照明:大西弘憲
録音・整音:高木創
音響効果:荒川きよし
制作担当:姜勇気
記録:木本裕美
編集:安澤優弥
美術プロデューサー:坂口大吾
衣装:横山智和
ヘアメイク:野村雅美
持道具:荒木功
装飾:田村正之
音楽:世武裕子
出演:富田望生、伊藤万理華、青木柚、山之内すず、中川わさ美、MC NAM、田村健太郎、土村芳、渡辺真起子、山中崇、麻生祐未、甲本雅裕ほか
配給:太秦
公式サイト:https://minatomo117.jp/
(イラスト:水彩作家yukko)