2024年下半期、様々な映画が公開されたが、中でも印象的だった2作品を紹介したい。
ひとつ目は、1年を振り返る今の時期にぴったりな作品だ。この映画は、クリスマス映画の新たな定番作品であると同時に、人生の苦汁を知る大人にこそ染み入るヒューマンドラマである。
ふたつ目は、思いがけず私の人生の転機に大きく関わることになった、沖縄が舞台のアーティスティックかつ生命力に満ちた作品だ。
ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ
舞台は1970年ボストン近郊の寄宿学校。母親の再婚が原因で学校に居残りになった学生アンガス(ドミニク・セッサ)と、ベトナム戦争で息子を亡くしてまもない寄宿学校の料理長・メアリー(ダバイン・ジョイ・ランドルフ)、そして偏屈で嫌われ者の考古学教師ポール(ポール・ジアマッティ)。この3人がクリスマス休暇の2週間共同生活する中で、次第に絆を深めていく物語だ。
この3人の心の交流こそが映画の肝だが、本作の前半では、居残り学生が5人だったところから、アンガス、ポール、メアリーの3人になるまでをしっかりと描いている。
特にアンガスにおいてはその前置きがとても重要であった。アンガスはほかの学生たちが試験結果でC以下の評価を受ける中、B+の評価を受ける。また、隣のベッドで寝ていた下級生がおねしょをしてしまい「自分には友達もいない」と泣いたとき「友達って過大評価されすぎだ」とさりげなく励まし、やさしい優等生な一面を見せていた。
そんなアンガスは、母親に見放され、不運にも同級生たちが向かったスキー休暇からも取り残されてしまう。映画の前半で、彼の人物像を描いたからこそ、その哀れさが際立ち、のちに彼が暴走して校内を走り回ったときも、ボストンで突如姿をくらませようとしたときも、ただの問題児とは決して思えず、同情心を抱いてしまったのだった。
一方で、メアリーの繊細な人物描写も見逃せない。戦争で息子を亡くしたばかりのメアリーの心は悲しみに満ちているが、その歯に衣着せない物言いと良い意味でのドライさで彼女を愛すべき女性として表現している。
3人の中で唯一の女性という立ち位置は、母性を表すかと思いきや、あくまで良き友としてアンガスにもポールにも接している。特に、映画の終盤にポールが校長室に呼び出され、室外のベンチでアンガスが不安いっぱいに座っていたシーンに、メアリーの人物像が現れている。
メアリーはアンガスに、何も言わずそっと手を差し伸べたのだ。ぎゅっと抱き寄せ、頭をなでるようなことはせずに、アンガスの気持ちに寄り添う。メアリーらしい程よい距離感をたもった優しさだ。
ところで本作が日本公開されたのは、6月だった。私は鑑賞当時「これは、クリスマスに観たい!」と心底思ったのを覚えている。クリスマスシーズンを舞台にした作品という理由もあるが、クリスマスは数日後に迎える新年に対して、気持ちを新たにする機会だと思うからだ。
本作の最後には、登場人物たちがそれぞれ人生の一歩を踏み出す。とくに、教師のポールは大きな決断をする。苦節を味わい、皮肉と諦めを抱いて生きてきた中年男性が奮い立たせた勇気に、感動しないわけがなかった。ポール役をあてがきされたという俳優ポール・ジアマッティの人間味そのものがあふれるような表情がもう、たまらないではないか。
この映画を観るのに最適なシーズンの訪れに、“チェリー・ジュビリー”をお供に再鑑賞したいと思っている。