【心の傷を癒すということ】人の心に向き合い続けた精神科医の生涯。精神疾患への偏見を拭い去り、人の弱さから光を見出す物語

osanai 心の傷を癒すということ

阪神・淡路大震災が発生した1995年1月17日。被災者の心のケアに奔走した精神科医の物語。
「カムカムエヴリバディ」でチーフ演出を務めた安達もじりが総合演出を務めた。主人公・和隆を柄本佑が演じている。
本作は1月1日に発災した能登半島地震へのチャリティを目的とした無料オンライン配信が行われている。(2025年4月1日まで)
https://note.com/kokoroiyasu_mov/n/n000ce318bc24

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心的外傷後ストレス障害。別名、PTSD。

この病名が社会的に認知されたのは、1995年1月17日、神戸に壊滅的な被害をもたらした阪神・淡路大震災がきっかけであった。

およそ30年前、心の病に対する知識は今ほど浸透しておらず、精神科に通うことさえ抵抗を示す人が多かった。人が抱える“心の傷”の正体、トラウマとは何かについて、世間にしらしめた人物がいる。故・安克昌。精神科医である。映画「心の傷を癒すということ」は、同タイトルで発表された彼の著書が原案となっている。

人間の複雑な心を理解するため、精神科医の道を選んだ

映画の作中では、克昌をモデルとした「和隆」が主人公として描かれる。和隆は、在日韓国人の両親のもとに次男として生まれた。韓国籍であることを知られると、日本では偏見の眼差しを向けられる。そのため、両親は日本の姓を名乗っており、和隆もそれに倣った。だが、心のどこかでは「こんなのは嘘の名前だ」という思いが引っかかっていた。

和隆の父は実業家として成功を収める一方、家族に対し高圧的な物言いをする人であった。事あるごとに和隆に「自立しろ」と迫り、精神科の医師になりたいという息子の意思を真っ向から否定した。将来を有望視される優秀な兄と比べられることもまた、和隆の自尊心を傷つけた。

「人間の複雑な心をどうにか理解しようと努力するのが精神科医や」

そう言い切った和隆は、激昂する父の反対を振り切り、精神科医療の世界に飛び込んでいく。

やがて和隆は、遠方から患者が駆けつけるほど優秀な精神科医として一目置かれる存在となった。和隆の医師としての技量は言うに及ばず、温和で誠実な彼の性格に、多くの患者が信頼を寄せた結果であろう。

どの診療科目にも言えることだが、患者への向き合い方は医師により大きく異なる。特に精神科の場合、医師と患者の相性は治療の経過に直結する。流れ作業的に患者を扱う医師もいる中で、和隆は患者一人ひとりに対してでき得る限り真摯に向き合った。そんな彼の姿勢は、精神疾患を抱える人たちにとって、大きな安心につながったに違いない。

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S H A R E
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エッセイスト/ライター。エッセイ集『いつかみんなでごはんを——解離性同一性障害者の日常』(柏書房)刊行。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評・著者インタビュー『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『婦人公論』|ほか、小説やコラムを執筆。海と珈琲と二人の息子を愛しています。

エッセイ集『いつかみんなでごはんを——解離性同一性障害者の日常』(柏書房)
https://www.kashiwashobo.co.jp/book/9784760155729