沖縄のサトウキビ畑で収穫のアルバイトをする若者7人。果てしなく続く農作業を前に、仲間とともに太陽のもとで作業に取り組む物語。
長田弘詩集に収められている「深呼吸の必要」を参考に、篠原哲雄が映像化。主演を香里奈が務めている。
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“青い空の中 雲が動いていく
久しく見ない空は 普通の空”
数日前、不思議な空を見た。
エメラルドグリーンの海。雲のようにやわらかな白い砂が広がる浜辺。流木をベンチ代わりにくつろぐ人たち。静かに打ち寄せる波は、砂の上にゆるやかな曲線を描き続ける。海と溶け合うかのように広がる空には雲が幾つかの層を作っていた。幾重にも重なる雲は、上の層と下の層でそれぞれ反対方向に流れていく。そんな空を見るのは初めてで、しばし言葉を失った。でも、私がそこにいてもいなくても、この景色は毎日当たり前のようにそこにあるのだろう。
今あなたのいる場所から見える空は、どんな空だろうか。朝の空。昼の空。夜の空。あるいは窓のない空間にいて、空なんてカケラも見えないかもしれない。もしそうなら、最後に見た空はどんな空だっただろうか。
ここ最近の暮らしの中での空を、私はほとんど思い出せない。ほとんど家にこもって仕事をしているということもある。移動はもっぱら地下鉄。たまに地上を走る乗り物に乗っても、ほとんどの時間、視線はスマホに固定されている。たとえ窓の外に虹が広がっていようと無数の星が瞬いていようと、気付かずに見過ごしてしまっているだろう。空はいつもそこにあるはずなのに。
映画「深呼吸の必要」の登場人物たちは、一日の大半を屋根のない場所で過ごす。毎朝軽トラックの荷台に乗って向かう職場は、見渡す限りのサトウキビ畑だ。果てが見えないほどに広がる畑のサトウキビを、照りつける太陽の下で朝から夕方までくまなく刈り取らなければならない。
1ヶ月少しのアルバイトとしてはるばる沖縄にやってきたのは男女5名。雇い主であるおじぃ・おばぁの家で共同生活をおくりながら経験者である田所の指導のもと、サトウキビの収穫にいそしむ。