【フィンガーネイルズ】愛し続けるためには、小石の確認作業の継続が不可欠である。

ぼくとパートナーとて、もちろん例外ではない。

先日、愛猫に重篤な病気が判明した。命に関わるレベルのものだが、幸いにも発見が初期だったため今は無事に快方へ向かっている。子どもを望まぬぼくたちにとっての待望の第一子だったこともあり、正式な診断名が付く前も付いた後も、毎日こわくて泣いていた。回復してきた今も、寝ているあいだになにかあったらと思うと怖ろしくて、夜は何度も目が覚めてしまう。

そんなぼくとは反対に、パートナーは終始いたって冷静だった。検査結果を待つまでのあいだも、本格的な闘病生活がスタートしてからも、毎日規則正しく同じ時間に起きて同じ時間に眠りについている。彼のいびきを疎ましく思ったが、彼まで取り乱していたらきっと我が家は崩れていただろう。彼の感情のフラットさは、ある側面においては確実にぼくと子の助けとなった。交際時は冷静なところを好ましく思っていたが、今でも同じように愛しているのだと腹落ちして安堵した。ふたりのあいだに引っかかり続けていた小石のひとつが、思いがけず除去された。

好きだった部分が、時を重ねるにつれて嫌いな部分へと変化してしまった。そんなふうに思えてたまらなく寂しくなったりしたけれど、単純にそれのもたらす異なる種類の影響を知っただけの話だったのだ。それはきっと、彼も同じだろう。「好きだったはずなのになぜ」と憂い、ぼくと同じベッドに寝ながら孤独を覚える夜は、彼にだってあるはずだ。

躓いたときは、原因となった小石の色や形をちゃんと確認したい。もしも愛情検査を受けて結果が陽性だったとしても、小石を放置し続けたくない。できればその都度、難しいときは少し後になったとしても。彼とのあいだにあった小石の存在に気づけてよかったし、見ないふりをし続けなくてよかった。そうできていなかったら、ぼくもおそらくアナのようになっていただろう。きれいさっぱり除去できなくてもいい。ひとつひとつ確かめて、取り除けるものは取り除いて、それが叶わぬものは粉砕したりして、どうにかやっていけたらいい。累積したそれらの隙間に砂が入り水が染み込み、気がついたら取り除けないほど大きな岩になってしまわぬように。

そうやってひとつずつ確認しながらやっていけば、たぶんこれからもぼくたちは互いに愛し続けられる。

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■フィンガーネイルズ(原題:Fingernails)
監督:クリストス・ニク
脚本:クリストス・ニク、サム・スタイナー、スタヴロス・ラプティス
撮影:マルセル・レヴ
編集:ヨルゴス・ザフェイリス
キャスティング:カルメン・キューバ
プロダクション・デザイン:ザズ・マイヤーズ
音楽:クリストファー・ストレイシー
出演:ジェシー・バックリー、リズ・アーメッド、ジェレミー・アレン・ホワイト、ルーク・ウィルソン、アニー・マーフィーほか
配信:Apple TV+
公式サイト:https://tv.apple.com/jp/movie/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%8D%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9/umc.cmc.5kr10v39ex4n13rrwxjzm3jy7

(イラスト:水彩作家yukko

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ライター。修士(学術)、ジェンダー論専攻。ノンバイナリー(they/them)/日韓露ミックス。教育虐待サバイバー。ヤケド注意の50℃な裸の心を書く。