【劇場版 アナウンサーたちの戦争】言葉の影響力で何をするか

「信用のない言葉ほどみじめなものはない」

この物語を観ている間、わたしはずっとある手紙を思い浮かべていた。それは以前、憧れの作家さんからいただいたファンレターのお返事だった。

わたしはファンレターに「あなたのように言葉を使いこなせる書き手になりたい」ということを書いた。それに対していただいた言葉が忘れられない。「言葉は一本の剣のようなものだと思っています。使いこなすというよりも、毎日ぴかぴかに磨くのみ」。簡潔な一文には言葉への敬意が込められており、自分の未熟さを思い知る出来事だった。

この言葉をいただく前のわたしが、物語に登場していたらと思うと怖かった。「放送戦士」という立場を名誉に思い、言葉を使いこなして勝ちたいと思っただろう。

そんな自分に戻りたくないと怯えながら観ていたにも関わらず、和田と口論になった館野の言葉に揺さぶられた。こんな言葉だ。

「血を流さずに日本を勝利に導けるのだ。こんなに素晴らしいことはあるか」

そうかもしれないと思ってしまった。嘘でも隠蔽でも、それによって死者が減るのならいいのではないか。綺麗事がまかり通らないのが戦争ならば、人が死ぬことよりも真実が隠蔽されることは、はるかにマシなのではないか。

だけど和田は言う。「信用のない言葉ほどみじめなものはない」。

作家さんからもらった「ぴかぴかに磨くのみ」という言葉と重なった。

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S H A R E
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フリーライター、エッセイスト、Web編集者、ときどき広報。沖縄に10年くらい住んでます。読書と短歌と育児が趣味。