孤児の少年だったアンドレアス・エッガーは少年期に農場主に虐げられるも、大人になり日雇い労働者として生計を立てる。最愛の女性マリーと出会い、結婚し子どもを授かるのだが──
ローベルト・ゼーターラーの原作小説を「ヒランクル」、「アンネ・フランクの日記」を手掛けたハンス・シュタインビッヒラー監督が映像化。主人公エッガーの人生が、3人の俳優によって演じられている。
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生育環境が悲惨だった人物の話を聞くと、対象者の人生を“不遇”だと思い込んでしまうことがある。もちろん、起きた出来事の一つひとつを見つめれば、不幸としか言いようのない出来事もあるだろう。だが、その人の人生における選択や生き様を、外側からジャッジしたくはない。映画「ある一生」を観て、私はその思いを強くした。
アルプスに生きたある男性の生涯を描いた本作は、ローベルト・ゼーターラーの同名小説を原作としている。激動の時代といわれる1900年代、主人公のアンドレアス・エッガーは、農場を営む親戚の家に預けられた。安価な労働力として買われたに等しいエッガーは、連日農場主から激しい折檻を受ける。一家の子どもたちからも厄介者扱いされ、唯一の救いは年配女性のアーンルが注いでくれる愛情だけであった。
アーンルが亡くなったのち、エッガーははじめて明確に農場主に抗い、長年暮らした家を後にする。エッガーが少年から青年へと成長する一方、農場主は当然ながら老いていく。抗う術を持たない子どもを虐げるのは容易いが、力関係はやがて逆転する。「俺を殴ったら殺す」とエッガーにすごまれるまで、農場主はそのことに気付けなかった。虐げ続けた子どもが永遠に己に付き従うと信じていた彼の愚かさを哀れだと思う。
閉鎖的な農場での暮らしから解放されたエッガーは、日雇い労働者として日々を食いつなぎ、貯金に精を出した。その後、貯まったお金で一軒の山小屋を借り、庭に野菜を植え、つつましくも平穏な時を過ごす。そんな日々の中で、エッガーは食堂に勤めるマリーという女性と恋に落ちた。エッガーの誠実さに好感を抱いたマリーは、彼のプロポーズを受け入れ、やがて彼との子どもを宿す。