オッペンハイマー
最後の場面、なぜアインシュタインはオッペンハイマーから立ち去ったのだろうか。しかもストローズの挨拶を無視してまで。
インターネットで公開されている脚本*を見てみると、下記のような場面であったことが思い出される。
(「オッペンハイマー」脚本 P197より筆者訳)
オッペンハイマー:世界を滅ぼす連鎖反応を起こすかもしれない、と私たちは心配したんだ。
アインシュタイン:ああ、覚えているよ。それがどうかしたのか?
オッペンハイマー:実現してしまったんだ。
アインシュタインは青ざめた。向きを変え、ストローズと話すことなく立ち去った。
ここでのオッペンハイマー自身の意図は、『オッペンハイマー クリストファー・ノーランの映画製作現場』(株式会社ボーンデジタル)で言及されている通り、下記だと考えられる。
科学者たちが生み出した連鎖反応とは大気に引火させることではない。核拡散そのもの、ほかの国よりも大量の核兵器を保有するために各国が核兵器庫を建設するという終わりのない連鎖のことだ。
(ジェイダ・ユエン、 クリストファー・ノーラン(2023)『オッペンハイマー クリストファー・ノーランの映画制作現場』ボーンデジタル、P25より引用)
この正直な告白に対して、アインシュタインがオッペンハイマーと共に頭を抱えたとしても、なにも不思議ではない。でも、アインシュタインは青ざめただけで、オッペンハイマーの元を去った。険しい表情とともに。
思うに、アインシュタインですらオッペンハイマーを理解しきれなかったのではないだろうか。そして、やや飛躍するが、オッペンハイマーは誰からも理解されなかったのではないか。オッペンハイマーは、周りの友人たちが何を欲し、何を求めているのかを的確に理解できた。しかし彼自身は、誰からも理解されることがなかったではないか。
そう考えてみると、アインシュタインは、オッペンハイマーにコケにされたと思ったのかもしれない。「オレ、すごいことできちゃった…」と、自慢されたと感じたのかもしれない。つまり、ストローズがオッペンハイマーに対して持った印象と全く同じ印象を、アインシュタインも持ったのではないか。