どこにでもいるような幸せそうな家族。しかし、豪奢な邸宅の隣にあるアウシュヴィッツ強制収容所では、毎日のように煙や声があがっていた。
原作はマーティン・エイミスの同名小説。『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』のジョナサン・グレイザーが監督を務めた。クリスティアン・フリーデルとザンドラ・ヒュラーが夫婦役を務めている。
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「関心領域」が「アウシュヴィッツ強制収容所の隣の豪邸で優雅に暮らす所長一家を描いた作品」であることは事前に知っていた。それが史実であること、監督のジョナサン・グレイザーがジャミロクワイの名曲「Virtual Insanity」のMVを制作していたことを知って、かなり興味はあった。
それでも実際に映画館に行く足取りは重かった。この作品は自分に突きつけるのだろうと思っていた。告発や糾弾、無知、現実のようなものを。見て見ぬふりがどういうことか、戦時下の日常のグロテスクさのようなものを。
しかし、僕の想定は大きく外れることになる。
この作品は、目を背けたい何かを突きつけたり、訴えたりすることで、観客の心を動かす、心に何かを刻み込むことを選ばなかった。それは、明確なメッセージを打ち出さなかった、観客に受け取り方を委ねたということではない。作品が提示する事実、メッセージをいかに澄んだ状態で届けるかを考えた結果、受け取ることを感情が邪魔をする、感情を動かす作品として消費するといったことが起きないように、心ではなく頭に届けることを選択した、ということだ。
だから、見たあとに、僕は傷つかなかった。重い気持ちを抱えることもなかった。代わりに、今もずっと考えることになった。ここにあるのは傷ではなく、問いだ。「あなたならどうした?」。「あなたは今、何をしている?」。