ラジオジャーナリスト・ジョニーは、ニューヨークで一人暮らしをしている。妹夫婦の事情により、9歳の甥・ジェシーと共に生活することになる。好奇心旺盛なジェシーの振る舞いに困惑しつつ、対話を通じて二人の関係性は徐々に親密なものに。心温まるヒューマンドラマだ。
監督は「サムサッカー」「人生はビギナーズ」「20センチュリー・ウーマン」のマイク・ミルズ。主人公のジョニーをホアキン・フェニックス、ジェシーをウディ・ノーマンが演じている。
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スクリーンに映し出される二人の姿を見つめながら、過去の自分の振る舞いに罪悪感を覚えた。
ラジオジャーナリスト・ジョニーはひょんなことから、数日間、甥のジェシーと暮らすことになる。朝から大音量で音楽を流したり、買い物中に突然居なくなったりするジェシーに、ジョニーは困惑し続ける。
ストーリーは二人の対話を中心に進んでいく。いわゆる疑似的な親子関係として描かれ、観る者の心をゆっくりと温めていく。
大人になって気づいた親の苦労
どうして、この作品を観て罪悪感を覚えたのか。
幼少の頃、自分の母は病気がちで、家事をこなすのが難しかった。それでも自分は、母に対して“親らしく”いてほしいと強く感じていた。
例えば母の体調が芳しくなかった時期、ほぼ毎日コンビニの弁当を食べていた。周りの子たちは親が作ったごはんを食べている。
周りは親から多くのことを与えられているのに、どうして自分は与えられないのだろうか。辛いことは頭では分かっていたが、母へ直接不満を漏らしたこともあった。
逆に、母から体調が悪くて動けないことへの苦しさを聞かされたこともある。母は健康な身体でないことへの苦痛を抱え、なおかつ子どもの期待に応えられないことに悩んでいたらしい。
母の大変さや苦労に気づいたのは、自分が一人暮らしを始めたときだった。親も1人の人間であり、様々な事情を抱えている。それにもかかわらず、自分は「解決してほしい」物事を押しつけていた。一方的に親へ求めてばかりだったことを反省している。
何より、母との対話を拒んでいたことを後悔している。対話を重ねていれば、母の事情を汲み取ることができたと思うのだ。
対話を重ねることで関係は変化する
ジョニーはジェシーに振り回され、困惑し続ける。ジェシーと暮らして初めて子育ての大変さを実感し、親が強いられる負担の大きさに気づく。
二人の関係性は対話を重ねることで変化する。お互いの内面に抱えるものを理解することで、互いの距離が近づき、許しあっていく。
誰もが最初から親として生きているわけではない。表面的には毅然とした態度の時でさえ、本心ではジョニーのように困惑し、怒りをぶつけたくなるのかもしれない。親も子どもとの対話を繰り返す中で成長し、関係性が変化していく。
きっと、自分も子育てをする時代が来たら、日々起こる多くの事態に右往左往するだろう。
母に対して、完璧な振る舞いを求めてばかりだった自分を反省する今。親になったらできることはどんなことか。
ジョニーのように対話を繰り返すことではないか。相手が内面に抱えることを知ろうすること。自分の内面にある言葉を伝えること。根気強く続けることは苦しいかもしれない。
それでも、対話の力を信じたい。
ジョニーとジェシーはポジティブなこともネガティブな心情も伝え合う。2人のように、ひとりの人間同士として理解し合うことを忘れないでおきたい。
そう深く感じた作品だった。
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■カモン カモン(原題:C’mon C’mon)
監督:マイク・ミルズ
脚本:マイク・ミルズ
プロデューサー:チェルシー・バーナード、アンドレア・ロングエーカー=ホワイト
撮影:ロビー・ライアン
美術:ケイティ・バイロン
音楽:アーロン・デスナー、ブライス・デスナー
出演:ホアキン・フェニックス、ウディ・ノーマン、ギャビー・ホフマンほか
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(イラスト:Yuri Sung Illustration)