1980年代のある夏、11歳のフキは両親と3人で郊外の家に暮らしていた。父はガンを患い入退院を繰り返し、母は家事と仕事に追われ、なかなかフキに気を配ることができていなかった。
監督・脚本を手掛けたのは「PLAN 75」の早川千絵。主人公フキを演じた鈴木唯は、撮影当時、役柄と同じ11歳だった。
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言わなくていいことは言わない方がいい言ってもしょうがない。余計なことを言って平穏を乱さない方がいい。あまりにも穿った見方、偏った視点過ぎる。個人的すぎて、他者に伝わらない。言葉にしなくていい。心の中に留めておくのがいい。言えることは無限にある。別の切り口を見つければいい。新しい表現を模索すればいい。
頭ではわかっている。わかっていた。でも、エンドロールで流れた曲を聴き、歌詞を見たときに、強烈な違和感が込み上げてきたのだ。
やあ、小さな天使さん
君の物語が今、始まったところだよ
そして書ける物語は、たったひとつだけ
だから、心から夢中になれることをやってごらん
人生には、楽しむ時間が必要なんだ
だって、人生は一度きりだから
先のことを考えすぎないで
それより「思い出」をつくることに集中して
(HONNE「LIFE – you only get one」著者訳)
人生って——本当に素晴らしい、素晴らしい、素晴らしいものさ、……それが終わるまでは
「この映画ってそういうこと?」「『人生は素晴らしい』なんて言葉で、この物語を飾り付けてしまっていいの?」
込み上げた違和感は、言わなくていいことに対する逡巡と躊躇いを薙ぎ払ってしまった。もう飲み込むことはできない。目の前にはもう何もない。踏み出すしかない。
僕は、映画「ルノワール」は、「闘病中の父と仕事に追われる母と暮らす11歳の少女・フキの日常と成長を描いた物語」ではなく、「自分の話を聞いてくれる大人がいない環境で生き抜く、11歳の少女フキの孤独と空洞を描いた物語」だと思う。僕は、この作品を明るい気持ちで見ることができなかった。見ていて辛かった。そして、ずっと怒っていた。フキの話を聴かない大人たちに。作品全体にふわっと漂う、フキの辛い状況を「子供と大人の狭間の時期特有の感性」と「80年代への郷愁」でマスキングするような空気感にも。