【天国の日々】祝祭にうごめく人間ならざるものたち

それでは人間を映す意味はあったのだろうか、とも考えてみたくなる。
マジックアワーに佇む小麦、イナゴ、思い思いに動き回る動物と巡る自然さえ映せば、あるいは映画になったかもしれない。
だが、人間がいたからこそ、あれらの世界が実際に存在して、私たちもその延長線上の世界に生きているのだと実感できるのでは無いだろうか。

人間が、リチャード・ギアが、アダム・ブルックスが駆け回っている、マジックアワーの光に照らされているからこそ、あの空間と時間が確かに存在したと実感できるし、これから先の世界でもしかすると、あのような時空間に自分も立ち会うことができるかもしれない、と実感できる。
このようなメッセージをテレンス・マリック監督が持っていたかどうかは全くわからないが、少なくともラストシーン、リンダ・マンズの旅が終わらず、また荒野に向かってかけ出す場面を見て、私たちとのつながりを強く感じた。

いわゆる映画としては、あの「天国」から離れたところで、終了しても特段問題は無い。
しかし、テレンス・マリックはそうしなかった。「天国」の後も、いわば下界に降りても旅は続く、世界は広がっている。
「天国」は天国などではなく、この世界と、私たちの世界と地続きであると実感させられてしまう。
だからこそ、確かにあの空間が特別な「天国」であることも強調されてしまうジレンマが生まれる。

人口が増え、都市化が進んだ現代では、あのような空間に出会うことは難しい。
それでも、確かにあの時空間は存在した、という実感は小さな喜びと鈍い哀しみをもたらしてくれる。その哀しみを乗り越えるには、やはり何度でも映画館に足を運び、スクリーンに目を向けるしか、どうやら方法はないらしい。

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■天国の日々(Days of Heaven)
監督:テレンス・マリック
脚本:テレンス・マリック
撮影:ネストール・アルメンドロス、ハスケル・ウェクスラー
美術:ジャック・フィスク
音楽:エンニオ・モリコーネ
出演:リチャード・ギア、ブルック・アダムス、サム・シェパード、リンダ・マンズほか
配給:アンプラグド
公式サイト:https://unpfilm.com/heaven/

(イラスト:水彩作家yukko

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S H A R E
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映画鑑賞が趣味なんですが、毎回必ず寝てしまいます。映画館で寝落ちしない方法をご存知の方はぜひ教えてください。