ラストシーン、カナコと長津田の関係性に、鮮やかな変転が起こる。つかず離れずが居心地がよかったのは、むしろカナコの側だったのかと錯覚するほどの変転だ。
長津田はカナコの存在が「替えがきかない」と気づき、関係性に名前をつけたがる。彼から逃げるカナコ、そしていきなり立ち止まったカナコは、いったい何を考えたのか。
カナコの軸に「替えがきく」「替えがきかない」という概念が、そもそもなかったのではないか、と思い返して感じた。
カナコはそういう価値観で、長津田をジャッジしていたのではない。けれど、二人の間にある「名前のない、けれど居心地のよい関係性」を、大切に思っていたのではないか。
「替えがきく」「替えがきかない」その判断は、本当はいつでも、誰にでもできる。「替えがきく」と、相手をばっさり切り捨てることも、「替えがきかない」と相手に過剰に思い入れることも。
カナコは、長津田に対して自分の判断を先延ばしにし続けた。「替えがきく」と決めても「替えがきかない」と決めても、二人の関係性にいまとは違う変化をもたらすことになる。カナコは、人生のどこかの時点で、長津田に対して、その判断をすることを放棄しようと思ったのではないだろうか。放棄の理由は、ひとえにカナコの不器用さ、そして懐の深さにあると考える。
カナコと長津田が、手と手を取り合い、ちょっぴり不格好なダンスを踊る。本作に繰り返し出てくるシーンだ。長津田の気まぐれで、人生の折々の節目に突然始まるダンス。
このダンス、すごく微笑ましくて、そして思い返すとちょっぴり悲しい。ダンスの時間が終われば、カナコと長津田は、またそれぞれの日々に戻っていくのだろうから。そして、次のダンスが何年先になるかは、きっとわからないのだから。でもこのダンスシーンこそがカナコと長津田の幸せの最上ランクの光景、という風にも見える。
さはさりながら、カナコと長津田の10年をスクリーンで追っているあいだ「大学時代をもう一度やりたいなんて言うやつの気が知れない」と思っていた。
あんなに大変な思いはもう沢山だ。胸のなかでの思い出が、どれだけきらきらと光っていたとしても。
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■早乙女カナコの場合は
監督:矢崎仁司
原作:柚木麻子『早稲田、女、男』
脚本:朝西真砂、知愛
撮影:石井勲
照明:大坂章夫
音響:弥栄裕樹
美術:高草聡太
編集:目見田健
衣装:篠塚奈美
ヘアメイク:酒井夢月
音楽:田中拓人
出演:橋本愛、中川大志、山田杏奈、根矢涼香、久保田紗友、平井亜門、吉岡睦雄、草野康太、のん、臼田あさ美、中村蒼ほか
配給:日活
公式サイト:https://www.saotomekanako-movie.com/
(イラスト:水彩作家yukko)