私には何ができるだろうか
あと2〜3年ほどで、「本心」の世界は現実化するのだろうか。信じがたい気もするけれど、国外ではすでに、亡くなった人をAIで蘇らせるサービスも始まっているという。VFが私たちにとって身近なものとなる日も遠くない。
死者のAI化。死のタイミングを自分で決めること。テクノロジーが発達した社会における労働と、社会的格差。本作には、たくさんの問いが含まれていた。けれども、解決に向けたヒントや未来への希望のようなものは、あまり見当たらなかった。どう向き合えばいいのか消化しきれていない、というのが私の正直な感想だ。鑑賞後、うっすらとした気持ち悪さがずっと残ったのは、提示された問いをどう受け止めていいかわからなかったことも、大きな要因のひとつだったと思う。
多くの問題が見えてきたが、では死者のAI化に反対か、と聞かれたら、私は悩んでしまう。どんなかたちでもいいから、亡くなった人にもう一度会いたい。そう願ったことは、私にもあるから。
人の死を受け入れるのは簡単なことではない。身近な人ならば、なおさらだ。その人の死後、生きつづけていく人の救いになるならば、死者も本望かもしれない。ただ、AIが生きつづける人を絶望させるものではあっては決してならない。少なくとも秋子のVFは、朔也に混乱ももたらした。
人間のAI化には、技術的な課題も法整備や人々の心構えの問題も、きっとたくさん残されている。テクノロジーの進化のスピードに負けないように、人間も何か対策を考えなくてはならない。
でも、どうやって?
テクノロジーも人間がコントロールしているもののはずなのに、おかしな話だ。
未来への答えを出すことは簡単ではない。けれども確実に言えることは、今日も私が、予測不能で複製不可能なあたたかい生き物として生きているということ。血の通ったものをたくさん摂取して、ヒトの体温を忘れずに生きていきたい。
混乱しながらも、ひとまず私は、お肉屋さんでレバーを買って食べることにした。すこしだけ、元気になった気がした。
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■本心
監督:石井裕也
原作:平野啓一郎『本心』
脚本:石井裕也
音楽:Inyoung Park
音楽:河野丈洋
撮影監督:浜田毅
撮影:江﨑朋生
照明:三善章誉
録音:清水雄一郎
美術:高橋努
編集:普嶋信一
編集:シルヴィー・ラジェ
AI監修:清田純
出演:池松壮亮、三吉彩花、水上恒司、仲野太賀、田中泯、綾野剛、妻夫木聡、田中裕子ほか
配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト:https://happinet-phantom.com/honshin/
(イラスト:水彩作家yukko)