思い返せば、祖父母からはこんなふうに言われたことがある。
「女の子なんだから、そんなに勉強がんばらなくていいのよ」
「結婚はいいわよ。萌ちゃんも幸せになれるわよ」
これらは、「虎に翼」の最初のシーンで、はるさんや寅子の幼馴染である花江がさんざん言っていた言葉とそっくりだ。彼女たちはしきりに、家庭に入り、結婚することの幸せを寅子に伝えた。
祖父母も、はるさんも、花江さんも、”不幸になれ”と思って言っているわけではない。むしろ、”幸せ”になってほしいと思っている。きっと、だからこそ、今も私の中に”ある”のだろう。全く間違ってはいないからこそ、私はその見えない物差しで、自分を刺してしまった。寅子の口癖である、「はて?」は言えなかった。
でもそんな、みんなと同じだという顔つきをした物差しを、ここに書き残すことで捨てようと思う。その物差しは、誰かにとっては幸せだが、必ずしも自分にとっての幸せではない。自分にとってにとっての幸せの基準を決める物差しは、自分で叩いて引いていい。誰にも譲らなくていい。もしも、物差しのせいで視界が曇っている人がいたら、あなただけではないことを伝えたい。
そんな30代を迎える時に、「虎に翼」に出会えたことを、うれしく思う。寅子のように、自分の道を、自分の速度で、歩いていいのだと思えた(寅子は、作中では社会的な立ち位置のために結婚を決意する。その人間らしさも愛おしかった)。
ただ同時に、社会に絶望もした。
悲しいことに取り上げられていた同性婚や選択的夫婦別姓、介護問題などは「解決」というには程遠い。「虎に翼」で社会問題を詰め込まなきゃいけないほど、私たちの社会は問題だらけ。そもそも寅子が切り拓いた「女性が働き続けること」というあり方だって、最近までは当たり前でなかった話。時代は進んだようで、進んでないのだと実感した。
弁護士資格を得るための高等試験で、女性として日本で初めて合格した寅子。女性弁護士誕生を祝う祝賀会でのセリフは、大きな反響を呼んだ。
「この場に私が立っているのは、私が死ぬほど努力を重ねたから。でも、高等試験に合格しただけで、自分が女性の中で一番なんて、口が裂けても言えません。志半ばで諦めた友。そもそも学ぶことができなかった、その選択肢があることすら知らなかったご婦人方がいることを、私は知っているのですから。
でも今、合格してからずっとモヤモヤとしていたものの答えがわかりました。私たちすごく怒っているんです。ですよね?法改正がなされても、結局、女は不利なまま。女は弁護士にはなれても裁判官や検事にはなれない。男性と同じ試験を受けているのにですよ?
女ってだけで、できないことばっかり。ま、そもそもがおかしいんですよ。もともとの法律が私たちを虐げているのですから。
生い立ちや、信念や、格好で切り捨てられたりしない。男か女かでふるいにかけられない社会になることを、私は心から願います。いや、みんなでしませんか?しましょうよ。私はそんな社会で、何かの一番になりたい。そのためによき弁護士になるよう尽力します。困っている方を救い続けます。男女関係なく!」