人は死んだらどうなるのだろう。魂や天国の話ではなく、現実的な話だ。異国で死ぬと、遺族や関係者が現地へ身元確認に向かう。様々な事情でそれができないこともあるようだ。遺体は「貨物」として飛行機に乗り、運ばれる。エンジェルハースが引き取った遺体は、空港の片隅にある処置車の中で必要な処置をされたのち、帰りを待つ人の元へ届けられる。外務省の「海外邦人援護統計」(2013〜2022年)によれば、1年に306人から多いときで601人の邦人が海外で亡くなっている。ドラマに登場するエンジェルハースのモデルとなったエアハース・インターナショナル株式会社では、毎年約200体から250体の遺体を運ぶという*1。
遺体は、現地でひどく損傷していたり、母国に運ばれるまでに腐敗したりする場合もある。ただでさえ大切な人を突然失った悲しみの中にいる遺族にとっては、そんな状態の遺体との対面はさらなる心の傷を抱えることになりかねない。国際霊柩送還士たちは、メイク道具や特殊な材料などを駆使し、遺体を生前に近い状態へと修復した上で家族の元へ送り届ける。
どんな状態の遺体にも生きている人間と同じように話しかける那美。「XXちゃん、よく頑張った!」「おじいちゃん、えらい目にあったね。すぐ綺麗にして男前にしてあげるから」。エンジェルハースの社員たちは、見るも無惨な遺体をもありとあらゆる手を尽くして修復していく。傷痕には絆創膏を貼り、損なわれた部位を補修し、丁寧にメイクを施す。そうして遺体はまるでただ眠っているかのような美しさを取り戻していく。
中には生前のすれ違いで、故人との対面の機会を拒む遺族もいる。そんな遺族に那美は強い口調で詰め寄る。
「いえ、ダメです。どんなご事情があろうとも最後に一目お会いしてお別れをされたほうがよろしいかと思います。あとで絶対に後悔します!」
すれ違いのままの関係や不完全な別れがどれだけの痛みを伴うか、数々の経験を経て那美は知っている。すでに命の光を失いながらも美しい姿で帰ってきた愛しい人の亡骸に、遺された人々はそれぞれ声をかける。
「おかえり」
「よくがんばった」
「大変だったね」
「ごめん、ごめんな……すまん……」
「もっと一緒にいたかった……でも最後に会えてよかった」