【フィンガーネイルズ】愛し続けるためには、小石の確認作業の継続が不可欠である。

そもそも50%が示すものは、本当に「片想い」のみなのだろうか。また「ふたり以上のひとと陽性になることはない」とするのならば、ポリアモリーのひとたちの実存の否定になってしまう。それはあまりにも非現実的すぎやしないだろうか。

アナについても同様のことが言える。アミールが自分を愛しているかもしれないと思っただけなら、わざわざ爪を剥いでまで確かめる必要はない。アナは自らを疑ったのだ──自分はライアンではなく、アミールを愛しているのではないかと。

ゆえに50%は片想いのみならず、「惹かれ合い始めている状態」ないし「互いにほんのり好意を抱いている状態」も含んだパーセンテージなのではないかと考えた。だいたい同時に複数人へ愛情を抱くことなど、ポリアモリーでなくともさほど珍しい現象だとは思えない。これらは奇しくも、愛情測定機および愛情検査の欠陥を証明してしまっている。

そのうえで、おそらくモノアモリーであるアナがアミールにも恋をしたのは、言うまでもなくライアンとの関係性の変化が影響している。3年前に検査を受けたときとは、きっとなにもかもが少しずつ異なってしまったのだろう。長い年月、雨風に晒されてみすぼらしく錆びてしまった洒落たデザインのベンチみたいに。

アナの選択は不誠実だし、無責任だ。アナはライアンやアミールから問われると、度々“I don’t know.”を繰り返す。しかしアナだけが不誠実なわけでも、無責任なわけでもない。アナが堪りかねて叫んだ「関係は日々築くもの」という言葉に、そのすべてが集約されている。きっとアナは、本当にただ寂しかっただけなのだ。すべておんなじでいてほしいと願っていたわけじゃない。フィットしないところがあってもいい。ただ自分の抱える寂しさに、目を背けないでほしかっただけ。隠し事を問い詰めてほしかったし、なぜセミナーや再検査に誘うのか訊ねてほしかった。そしてアナ自身もまた、誤魔化し笑いをするのではなく、正直に憂慮を打ち明けるべきだった。つまるところふたりともが、互いに対峙することを避け続けたままここまで来てしまったのだ。

検査の結果が陽性であっても──生涯を共に過ごすといくら固く誓っても、過ごす時間が長ければ長いほどズレは生じる。ひとつひとつは愛情を喪う決定的なものでなくとも、積み重なれば絆は確実にすり減っていく。だからこそ、その都度ぼくたちは確認し合わないといけない。もとより数年──数十年いっしょにいるからといって、相手の全部がわかるわけない。

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S H A R E
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ライター。修士(学術)、ジェンダー論専攻。ノンバイナリー(they/them)/日韓露ミックス。教育虐待サバイバー。ヤケド注意の50℃な裸の心を書く。