【ロイヤルホテル】想像力だけで経営はできないけれど

「ロイヤルホテル」の結末については、もしかしたら賛否が分かれるかもしれない。社会通念上、ハンナとリブの行為は、ともすれば犯罪となる。つまりそれを肯定するのは、犯罪の容認ではないかというロジックも成立しよう。

ただ思うのだけど、あくまで「ロイヤルホテル」という作品はフィクションだ。フィクションゆえに過剰な描写や、犯罪を肯定する表現が必ずしも許されるわけではないのは理解しているけれど、まあ、それはそれとして。(それを突き詰めると、約30年にわたり殺人現場に居合わせているコナン氏とその仲間は、トラウマになりかねないほど凄惨な体験をしているともいえるし)

冗談抜きに(つまらない冗談でごめんなさい)真面目な話をすると、フィクションゆえの多少過剰な表現だからこそ、観る者をエンパワメントすることもある。

本作では、公正ではない間柄ながら気を許していた男性に対して、リブが「出ていけ!」と酒瓶を投げつけるシーンがある。

そのとき私は、坂元裕二が脚本を務めたドラマ「カルテット」を思い出した。早乙女真紀(演:松たか子)は、世吹すずめ(演:満島ひかり)に対して、「泣きながらご飯食べたことある人は、生きていけます」と慰めの言葉をかけたシーンが重なったのだ。

その言葉を雑に借りてしまうと、「怒りながら『出ていけ!』と酒瓶を投げつけたことある人は、生きていけます」ではないか。語呂も良くないし、無理やり感があるけれど、まさにそうなのだ。あえて繰り返す。

「怒りながら『出ていけ!』と酒瓶を投げつけたことある人は、生きていけます」

「怒り」とは、もう、どうしようもなく内側から湧き出るものだ。当然ながら、現実の世界で犯罪に手を染める行為には強く反対する。だが、「怒り」が何らかの形で発露してしまうことを私は一概に否定できない。その形は、言葉として生まれることもあるし、時には、物を破壊する行為に至ることもあろう。(繰り返すが、ケースバイケースだ)

パブで卑猥な言葉を浴びて、「これで仕方がない」と洗脳されていたリブが、彼女の洗脳を解くべく自ら酒瓶を投げる。酒瓶を投げるしかなかった。ある種の「破壊」を通じてでないと、洗脳を解くことはできなかったのだ。

「起業家には向いてない」と言い放ったあなたもまた、ある種の洗脳にとらわれた被害者なのかもしれない。そんな呪縛が、社会にはそこかしこにある。

「ロイヤルホテル」という作品は、ひとつの(あるいは複数の)呪縛を解き放つエンパワメントストーリーだ。想像力だけでは経営者は務まらないかもしれない。でも、豊かな想像力があれば、きっと強く生きていけるのではないか。「それっぽい」社会の気配に惑わず、強く生きていく仲間たちとの連帯を私自身も深めていきたい。

──

■ロイヤルホテル(原題:The Royal Hotel)
監督:キティ・グリーン
脚本:キティ・グリーン、オスカー・レディング
撮影:マイケル・レイサム
作曲:ジェド・パーマー
出演:ジュリア・ガーナー、ジェシカ・ヘンウィック、ヒューゴ・ウィーヴィング、トビー・ウォレス、ハーバート・ノードラムほか
配給:アンプラグド
公式サイト:https://unpfilm.com/royalhotel/

<参考>
*1:“女性起業家の半数がセクハラ被害” スタートアップ業界で何が(NHK)

(イラスト:水彩作家yukko

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