話が逸れた。
本作の主人公は、ジュリア・ガーナー演じるハンナと、ジェシカ・ヘンウィック演じるリブだ。ふたりはカナダからオーストラリアに旅するも、クレジットカードが使えなくなるなど散財し、お金を稼ぐ必要に迫られる。紹介所で勧められたのは田舎のパブでの接客業。車で連れられたパブは、「ロイヤルホテル」という名前だが、古めかしく、進んで働きたいとは思えない環境だ。
一瞬たじろぐも、ふたりは「冒険も旅のスパイスだよ」といって働き始める。店長も客も、ふたりに対してあまりに粗野なことは即分かったけれど、これもまた経験とばかりに、ふたりはパブの雰囲気に順応しようと努力する。
だけど、いかんともし難い。
ちょっとでも気を許すと、パブの客は調子に乗り、ひたすらハラスメントの言葉を投げ続けるからだ。「冒険も旅のスパイスだよ」という言葉が虚しく響く。そもそも“スパイス”というのは料理を引き立てる役割を担うもの。人生を豊かにするためには幾ばくかのハードシングスは必要だけれど、「不機嫌なメス犬」なんて言葉を浴びせられるのは、ただの中傷行為でスパイスにはなり得ない。
私もまた高校生のときに、同じ部活のチームメイト(あろうことか同級生のキャプテンだ)から、「お前、笑うとき口が曲がってんな」と言われたことがある。あのときはヘラヘラ受け流すしかなかったけれど、そういう笑い方をしたのは「お前」の言動に腹が立っていたからだよ。あれから23年くらい経つけれど、「お前」の非礼を忘れたことなんて一度もないからな。言うまでもなく、彼の発言は、私の人生において“スパイス”になっていない。