【ロイヤルホテル】想像力だけで経営はできないけれど

osanai ロイヤルホテル

カナダからワーキングホリデーでオーストラリアを訪ねた女性ふたり。滞在中に金欠になり、オーストリア荒野にたたずむ「ロイヤルホテル」という名前のパブで働くことになる。
2016年に「Hotel Coolgardie(原題)」としてドキュメンタリー映画化された、オーストラリアに実在するパブがモデル。「アシスタント」を手掛けたキティ・グリーン監督が、再びジュリア・ガーナーを主演に起用した。

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アンプラグドのN氏から試写の案内をもらったのが6月中旬。映画の公開が7月26日だから、公開日に映画の感想を記したテキストを紹介できたかもしれない。「いや、してくれよ」と、宣伝担当者だったら思うだろう。日本製作の作品が興行収入の上位を占める昨今において、よほどの覚悟がない限り、海外作品を日本に持ってこようという意思は湧かない。それが優れた作品であるならば、メディアは相応の努力を払った配給会社に応える責務があるだろう。

ただ言い訳するわけではないけれど、このタイミングで映画について書けて良かったと思う自分もいる。というか、「良かった」なんて言葉を書き留めるのは適切ではない。配給会社への不義理ではなく(不義理もある)、センシティブなニュースに端を発して筆を持ったという経緯があるからだ。

そのニュースとは、起業を志した女性が、投資家からのハラスメントによって精神を病んでしまったというもの(*1)。見方によっては、他者の苦しみを“ガソリン”に、執筆という駆動に変換したとも捉えられかねない。情けないことにそれもまた事実であり、ただ、社会の歪な構造に無力だった私自身への免罪符として、こうしたテキストを書いている。被害に遭ったご本人や、少なくない起業家(女性が大半だが、男性もまた広い意味でのハラスメントを受けているだろう)の方々にはどうかご容赦いただきたいと思うし、テキストの内容について不適切な表現があれば何なりと指摘いただきたい。

さて。

性別問わず、被害に対する抗議の声があがる一方で、「これ(ハラスメント)で諦めるなら、起業家には向いてない」といった心ない言葉が散見された。百歩譲って「向いてない」としても、ハラスメントが原因で起業を断念したとしたら、本人の責任など0.0000001%もあるだろうか。いや、ない。皆無だ。こんなことを書くと、「いや誤解ですよ、私はハラスメントに反対ですよ」と反論される。というか実際に、何かと理由をつけては積極的に反論している様が見られるが、その反論は自己保身以外のなにものでもない。「おれ、そんなつもりで言ってないよ」って、そうなのかもしれないけれど、「確かに『殺す』って言ったけど、そんなつもりなかったよ」とか、「確かに相手を殺めてしまったけど、殺意はなかったんだ」とか、そういった類の弁明だろう。そんな言い訳をする方が、よほど経営者に向いてないんじゃないか。

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S H A R E
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株式会社TOITOITOの代表です。編集&執筆が仕事。Webサイト「ふつうごと」も運営しています。