まるで彼らに呼応するように「The Bear」の経営状況も完璧とは程遠い。それどころか存続の危機に追い詰められている。表向きでは綺麗に整えられた店内だが、実情は厨房の中も働く人間も何もかもぐちゃぐちゃの状態だ。きっと中小企業や小さな組織で働いたことがある人ならば誰もが身に覚えがあるはずだ。
このドラマが特異であるのは、決してそれらを安易な社会問題として一般化して語ったり、あるいは短絡的な感動ドラマに仕上げないところにあると感じている。
もちろん現代社会が求める政治的な正しさを何かの基準で相対化するものですらない。
このドラマの目線は、一貫してシカゴの土地で家族や仲間と共に現実を生きる市井の人間達だ。私たち視聴者はそこに人間や社会の真の可能性を見出すのだ。この土地で毎日を実直に生きると決めた人達のリアルな生活の中にこそ、人生の美しさがある。
自分がシーズン3の中で特別に好きだったのは、エピソード6だ。
「刺激も情熱も魔法もいらない。世界も救う必要はない。ただ息子を食わせていきたいだけ。私に必要なのはルーティンよ。」
15年勤めた前職でリストラにあったばかりの46歳だったティナ(ライザ・コロン=ザヤス)は、就職が決まらず傷心状態の時にたまたま入ったレストランが、「THE BEEF」だった。
彼女は続けてこう言った。
「私はもうハングリーさを失ってしまった。家賃が払えるかを心配してーー現実の世界ばかり囚われている。」