スクリーンの中の世界:アートとの新しい接続法
アーティストを追ったドキュメンタリーは面白い。美術館やギャラリーでは知ることができない、アーティストの思考や制作プロセスを知ることができるからだ。特にヴェンダース監督のドキュメンタリーは「ブエナビスタ・ソシアル・クラブ」「Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」など名作が多い。ヴェンダース監督がキーファーを撮る。そんな魅力的な組み合わせに惹かれてはいたが、私はどこかで思っていた。アートは自分の目で見るものだ。
しかし、その思いはすぐに覆された。3Dメガネをかけて映画を見始めたら、スクリーンの中にキーファーがつくり出した世界が広がっていた。美術館の展示室で一枚の絵と対峙するように、いつのまにか私は作品の前に立っていて、目の前に首がないドレスの彫刻があった。右を見る、左を見る、少しだけ離れてみる(私が作品の前でいつもしていることだ)。ドレスのドレーン(引き裾の部分)に溜まる水も、後ろから照らしている太陽の光も、そよぐ風も、本当にそこにいるかのように感じられた。まったくはじめてのアート体験だった。
アートは自分の目で見て、においをかいで、全身で感じるものだ。だから時間によって変化する空の色や気温、光や影の具合も、作品の一部として記憶に刻まれる。だが、ヴェンダース監督の魔法によって、私は新たなアートとの接続法を与えられたような感覚だった。
彼の巨大なスタジオを映す時、カメラはもっと自由だった。私はスタジオの上から、キーファーの正面から、彼がスタジオの中を自転車でゆっくりと回るのを見つめる。かすかに口笛を吹いている様子が可笑しくて、そんな人間らしいところも好きになった。スタジオの中には、完成しているのか未完なのかわからない沢山の作品と、ボックスごとに整理された多様な素材を格納したストレージがある。彼はそこから一枚の写真を選んだり、助手に手伝ってもらいながらバーナーで藁を焼いたり、鉛を垂らしたり、旧式のクレーンのようなもので高いところに登ったりしながら作品を作り続ける。