【アンゼルム】アートとの新しい接続法

osanai アンゼルム

戦後ドイツを代表する芸術家のアンゼルム・キーファー。本人を撮影し、現在に至るまでの軌跡を追ったドキュメンタリー。
監督は「パリ、テキサス」、「ベルリン・天使の詩」のヴィム・ヴェンダース。アンゼルム・キーファーの幼少期をアントン・ヴェンダース(ヴィム・ヴェンダースの孫甥)、青年期をダニエル・キーファー(アンゼルム・キーファーの息子)がそれぞれ演じている。

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一枚の絵に心を射抜かれた瞬間

アートを見るのが好きだ。

はじめて一枚の絵に心を射抜かれた瞬間を鮮明に覚えている。それは長島美術館での出会いだった。

鹿児島の祖父母の家から丘を上がっていくとその美術館はある。南国の木々がゆたかな庭園からは、桜島と市街地が一望できてとても気持ちがいい。

館内は少し照明が落とされていて、幼い私は「大人のための場所だ」と感じたものだ。そして、薄暗い展示室の中で、私はシャガールの「緑のバイオリン弾き」に出会った。少し不気味で目を離せなくて、でもなぜかすごく心惹かれた。よく見ると悲しい顔をしている。何度訪れても、初めて会った時の感覚がよみがえる。その絵に会うために鹿児島に行くと必ず長島美術館に足を運ぶ。

1887年生まれのシャガールは、ベラルーシ出身のユダヤ人の画家だ。97歳まで生きたが、ロシア革命とふたつの世界大戦を経験し、時代に翻弄された。第二次世界大戦中にはユダヤ人と前衛芸術を敵視したナチス政権によって、ドイツ中の美術館から自身の作品を押収され、集めた作品を誹謗する「退廃芸術展」が開催された。自身はアメリカへ亡命して迫害から逃れたが、戦後はパリに戻って絵を描き続けた。

なぜこの絵がこんなにも好きなのだろう。大きくなってから、この絵は「ローマ皇帝ネロによるユダヤ人の大虐殺があった時、逃げまどう群衆の中でひとり屋根の上でバイオリンを弾く男がいた」という故事を元に描かれた絵だと聞いた。

このモチーフはシャガールの絵に度々登場するが、ユダヤ人にとってのバイオリン弾きは、婚礼・葬儀などの行事において民族音楽を奏でる必要不可欠な存在だったという。だからこそシャガールは、故郷の記憶と密接につながるもの、そして自身の文化的なアイデンティティを示すものとして描き続けたのではないか。

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S H A R E
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株式会社セイタロウデザイン 取締役、Brand Producer
1983年鹿児島生まれ。立教大学卒業後、PR会社にてコミュニケーション戦略立案、メディアリレーション、新規事業開発に携わる。その後、制作会社にて映画の宣伝・制作物の企画ディレクションを担当。 2008年、代表の山崎晴太郎と株式会社セイタロウデザインを設立、同社副代表。プロデューサー/ディレクターとして、企業のブランディングを軸にチャネルを横断したデザインプロジェクトの企画・PM・PRなどを手がけている。
EDITORS REPUBLICの編集チームとして不定期でニュースレターを発行。個人的に、現代アートと推し活の世界を深掘りしています。 https://editorsrepublic.substack.com/